第6章 何のため?誰のために?
その頃、ハートの海賊団では――
「おめェ、リンをどこにやった…!!」
ローはいつも以上に表情を怖くし、船の縁に座っている男、エースを睨みつける。
不安気な顔のベポに腕を止められているが、今にも斬りかかりそうな勢いだ。
「おめェがリンの言ってたトラファルガーローだな?おめェ、リンが出て行った理由を知ってるか。」
自分の知らないことを知っている、と思うと余計に腹が立ってきたのであろう。
クルーたちでさえ今まで見たことの無い程、じっと目の前を睨むローがそこにいた。
「リンがおめェと居たのを見かけた。火拳屋、アイツに何を言った。」
“ローが嫌いになったから出ていった”
ここでその言葉が出てきたらどうしたら良いか。
そんなことを思われていたら、追いかけることすら許されないだろう。
頭の中にあるのはその事だけであった。
リンが出ていく理由など全くないはずだったのだ。
しかし、エースの口から出てきた言葉は
何よりも聞きたくない言葉だった。
「リンは…お前らに命をかけてくれたんだ。」
“命をかけてくれた”
咄嗟に、コラさんの姿が頭をよぎった。
命をかけて自分を守ってくれた人。
もうあの時のような気持ちは味わいたくない。
コラさんを死なせてしまった原因の一部でもある自分に
命をかけられるほどの価値はない。
それはクルー達にも言ってある。
“精一杯になるのは良い。だが、おれの為に死ぬようなことをするのはやめろ。”
もちろん、リンにも。