第6章 何のため?誰のために?
「…やん?ねぇ、スモやん?」
後ろから呼ぶ声に、くいっとマントを引かれる。
「あぁ…悪ィ。なんだ。」
何年も前の話なのに、
今目の前にいるこの少女に綺麗に重なる。
「だーから、海賊は全部“悪”だって思う?って聞いたの」
波が船にドッと音を立てて打ち当り、砕けて泡立つ。
そして、そのまま後へ後へすべって、パノラマのように流れてゆく。
「…それはおれの立場を分かった上での質問か。」
“正義”
ただその2文字だけなのに、その方向性は様々だ。
自分でもたまに分からなくなる。
海賊をひたすら責め、取り締まるだけが正義か。
ただ優しくし、相手の思うように進めてあげるのが正義か。
「…冗談だよ、気にしないで。」
スモーカーが考えていると、
リンは聞いてきたにも関わらず話をさっさと切り上げた。
「結局さ、海軍と海賊は馴れ合えないの。今の私は“海軍に捕まった海賊”。身の危険を感じたら戦闘態勢に入る。スモやんと戦う時も、いつかは来るかもね」
軽々とそういい、「お腹空いたなぁ」なんて口に出しているリンを見て、
スモーカーはなにか違和感を覚えていた。
海軍と海賊が馴れ合えないことは確かだ。
だが、今自分はリンと話している。
戦ってなんかいない。
戦意だって、こっちは全くと言っていいほどない。
これは“馴れ合っている”のだろうか。
リンの話を聞いてそんなことを考える中で、
なぜかかすかな苛立ちに似た思いが腹の底の方にあった。
“海賊は全て悪、海軍だけが正義”
リンを見ていると、その考えがどうしても否定されてしまう。
自分にとっての“正義”
それを見つけたい。