第1章 恋はプレーン味
ここ数日おそ松くんとの出来事に気を取られていてすっかり忘れていた。
進路かぁ。みんなどうするんだろう。
やりたいことも夢もない。目標だって。
なんとなく授業とバイトに明け暮れる日々。
趣味で絵は描いてるけれど、趣味は趣味。
「うーーん……」
答えない私を見て、お母さんは深々とため息をついた。
「うーんじゃないでしょ。あんたね、何にも言わないけどちゃんと考えてるの?進学したいの?したくないの?大学だってお金かかるんだから。入るのが目的じゃなくて卒業後どうするかも見据えないと」
あーあ、カレーが不味くなる。
「分かってる。でも待って。今いろいろ調べてるから」
「今調べてて間に合うの?今は進路決めて方針を固める時期でしょう?」
「はいはい言われなくても分かってますごちそうさま」
カレーを流し込むように食べて席を立つ。分かっていることを指摘されるのほど煩わしいものはない。
シンクに食器を下げて足早にリビングから逃げる。
「こらのぞみ!話はまだ終わってないでしょ」
「また今度にして!今日はバイトで疲れてるから無理!」
追いかけてくる声から逃げるように自分の部屋へ。ベッドに潜り込み、スマホをいじりながら親が寝静まるのを待つ。
親に心配されるのが鬱陶しくて。
注意されているだけなのに自分を否定されている気がして。
なんとなく家にいるのが嫌で、私はこっそり家を出た。