第4章 四難モラトリアム
人混みの中、会話もなく歩く。
気の利いた話題を振れず、商店街の賑わいを眺めながら歩いていると、沈黙を破ったのはイチくんだった。
「疲れてるならやっぱり帰ろうか?送ってくから」
付き合ってからずっとあたし達はこんな感じ。
互いに本音を隠し、傷つかない距離感でこうやって上部だけで優しさを演じる。
ほんとはもっと喧嘩してもいいのかもしれない。わがままだって言っていいのかもしれない。
でも怖い。心を見せて拒絶されるのが。
だから隠し、周りとうまくやってやり過ごす。
子どもの頃より器用になったけど、あの頃のように無邪気にはなれない。
それなのに恋愛はしたい。きっと、上辺だけじゃない人との関わり方をあたしは探している。
怖くても、自信がなくても、寂しいから、あたしはこんなにイチくんといたいんだろう。
手をそっと繋ぐ。イチくんが驚いて目を見開く。
付き合ってるなら、彼女なら、自分からこうしたっていいよね?
イチくんの手を引いて歩き出す。
「のぞみ?どこいくの?」
「散歩したい」
可愛く誘いたかったのに、ぶっきらぼうな声になってしまった。
「イイね。公園行こうか」
イチくんは、困ったように笑いながら頷いた。今日はとことんわがままになろう。たくさん歩いてたくさん話すんだ。
だって、あたしは何も知らない。
イチくんの本当の気持ちを。