第4章 四難モラトリアム
イチくんはニコニコ笑顔で柳田くん達を見送ると、こちらに振り返った。
至近距離のさわやかな笑顔に、目が合うだけで胸が高鳴る。
「おれらも帰ろうか」
「うん!」
いつもは男友達との付き合いを優先するのに…。
久々のイチくんとの下校。嬉しいな。どんな話をしよう。
2人で帰り支度を済ませて席を立つ。
嬉々として教室のドアを開けると、ちょうど目の前におそ松くんの姿が飛び込んできた。
顔がぶつかりそうになり、慌てて身体を引く。
「ごめん!」
「あぁ、俺もごめーん。チューできたらラッキーだったのにな〜」
「またそうやってふざけて」
私がそう言えば、にししと歯を見せて笑う。おそ松くんって、イタズラっ子な少年って感じでかわいいなぁ。
スッとドアの横に避けてくれたので、お礼を行って教室を出る。
「バイバイおそ松くんっ」
「じゃあなー!」
明るい声で、おそ松くん。だけどイチくんとは決して目を合わせない。
イチくんもイチくんで視線を落とし、ワザと目を逸らしている。
イチくんは無言のままおそ松くんの前を横切ると、下駄箱へと向かった。
少し早足な彼に追いつくため、おそ松くんに頭を下げてあたしも後を追った。