第4章 四難モラトリアム
放課後、柳田くんがイチくんの席にやってきた。
「イチ」
名前を呼びながら右手を上げる。
「おつかれ」
イチくんはお決まりのハイタッチを返した。
柳田くんはイチくんの机に腰を預ける。
「今日暇?ボーリング行かね?」
「イイね!ああ、でも…」
何かを言いかけた素振りを見せながら、あたしを一瞥し、柳田くんに向き直る。
イチくんのその仕草だけで、柳田くんは何かを察したようだった。
「あーそっか。今日は高橋と帰る感じ?」
「え?そうだっけ?」
イチくんは普段、友達と帰っちゃうからたまにしか一緒に帰れないけど、何も予定が無かったり、約束しているとあたしと下校してくれる。
今日は約束していなかった気がするけど…。
「おいおい高橋忘れてんの〜?かわいそうなイチ」
「あははっ、最近全然のぞみと出かけてないから、どっか寄って帰ろうかなって」
「マジかよ!ラブラブじゃん!」
柳田くんが、冷やかすようにヒューと掠れた口笛を吹いた。すると、口笛に釣られて眼鏡の内川くんもやって来る。
「柳田。ボーリングのメンバー集まった?」
柳田くんは内川くんの肩に腕を回した。
「聞いてくれよ内川〜。イチは俺らより高橋がいいってよ」
「そりゃあ野郎と彼女なら彼女取るだろ」
「彼女がいてしかも席が隣。いいよなぁイチは!」
「あははっ、明日は一緒に帰ろう。はははは!」
しばらく他愛もない会話を交わし、柳田くんと内川くんは先に帰っていった。