第4章 四難モラトリアム
楽しみにしていた下校デートが始まった。
「あははっ!そうなんだ。大変だったね」
「そうなの。でも連絡したら向こうは全然気にしてなくてさー」
一緒にいると、大体話しかけるのはあたしからだけど、イチくんは相槌を打ったり笑いながら、長くなりがちな話をいつも聞いてくれる。
「なら気にしなくていいと思うよ」
「うん、だよね〜」
会話中、隣の笑顔に思わず見惚れる。
イチくんって優しいしかっこいいよなぁ。明るくてみんなと仲良しだし。
あたしから告白して、付き合って3ヶ月くらい経つけど、いまだに喧嘩したこともないし。
友達からは相性いいんじゃない?なんて言われるけどそうじゃないような気がする。イチくんが優しいからだ。
でも、なんだろう。この感じ。
なにか物足りないというか、寂しいというか…。
(そういえば…)
積み上げてきた2人の思い出を振り返ってみると、
(あたし、怒ったり悲しそうなイチくんを見たことがない…かも?)
近くにいるはずなのに感じる心の距離。
イチくん、ここ最近寝不足気味っぽいし、時折疲れた顔をしている。
なにか悩みごとでもあるのかな。
「のぞみ」
不意に名前を呼ばれ、顔を上げる。
「ぼんやりしてどうしたの?疲れた?」
イチくんは、心配そうに眉尻を下げて微笑んだ。
「いや、あたしは平気だけど…」
イチくんこそ大丈夫なのかな。
本人から聞き出せればいいけど、イチくんって隙がないというか、あまり他人に詮索されるの好きそうじゃないからなぁ。
「他人」かぁ。
あたし、彼女なのに、どうしてこんなに臆病になってるんだろう。
なんて考え込んでいたら、隣のイチくんも黙ってしまった。