第1章 恋はプレーン味
「やめてよ!」
急いでスカートを押さえ、振り返った瞬間——
「あ、待って俺——」
「え?あっ!」
立ち上がりかけたおそ松くんと接触してしまい、足がもつれて2人して廊下に倒れ込んだ。
ズシンと廊下が揺れ、通りすがりの生徒達の足が止まる。
「いつつ…大丈夫か?」
目を開ければ、おそ松くんが心配そうに私を見下ろしている。
咄嗟に頭を手で庇ったので怪我はなかった。
「平気…平気、だけど」
状況的には全然平気じゃなかった。
おそ松くんが仰向けの私に馬乗りになっている。
しかもあろうことか、その左手は床でも、私の肩でもなく、
「想像より胸ある…じゃなくて、俺の手のひらにぴったり…でもなくて!!ええと、ハリがあって弾力あああーー無理ぃっ!!言い訳したいのに本音しか出なーーーーい!!」
つまりは胸を掴んでいた。
「事故!事故だから!ワザとじゃないよ!?」
私の上で真っ赤になりながら狼狽するおそ松くん。普段女生徒のスカートを無邪気にめくっているくせに、どうしてこんなに恥ずかしがっているんだろう。
みんなの前でこんなことされて、恥ずかしいのは私の方だよ…。
「いいから…どいて」
恥ずかしさのあまり涙が滲む。すると、おそ松くんは急いで胸から手を離し、眉尻を下げて謝ってきた。
「ごめんっ、ほんとごめんなっ!これからは許可を得て胸は揉むか——」
言いかけて、何かに気づき顔を上げたおそ松くん。その表情は恐怖で引きつっている。
「…あんたって奴はまた性懲りも無く…」
「いや聞けって!たまたま左手がハァッ!?」
言い終わる前に、岩瀬ちゃん渾身の右アッパーがおそ松くんを宙に浮かせ、瞬きした直後には彼の頭が廊下の天井に穴を空け、宙吊りになっていた。
「お、おそ松兄さん!?」
たまたまそこに居合わせたカラ松くんがおそ松くんを回収し、申し訳なさそうに頭を数え切れないほどペコペコ下げながら、保健室へと連れて行ったのだった。