第1章 恋はプレーン味
「松野くーん」
次の日、廊下で松野くんの背中に声をかけた。
だけど振り返らず松野くんはスタスタと歩き続ける。
(そっか、松野くんって6人いるから——)
「…おそ松くんっ!」
初めて下の名前で呼んだのでなんだか気恥ずかしい。
でも、私の予想は当たっていたようでおそ松くんは直ぐに振り返る。
「ん?のぞみちゃん?」
普段男子とあまり話さないから少し緊張するけど…。
「これ、よかったら読む?」
漫画を差し出した途端、おそ松くんの目が輝いた。
「マジ!?トルナの最新刊じゃん!俺すげー好きなんだよ!」
「昨日発売の最新刊ってこれかなと思って。私も好きなんだ!トルナ」
「ひゃっほーい!ありがとうなのぞみちゃん!じゃあお礼に今度デート誘うから!あ、なんなら今日行っちゃう?」
「あ、あははっ、今日は漫画読んだら?」
漫画でデートのお誘いを牽制すると、おそ松くんは「それもそーか!」と納得した。
(だって、誰にでも言ってそうだし)
ん?なんで今イラッとしたんだろう。
まさか、まさかね…。
「今度ホントにデートしよう!俺部活やってねーし放課後ほとんど暇だから!」
「うんうん、わかったわかった」
おそ松くんは、射程圏内にいるターゲットに所構わずナンパする。岩瀬ちゃんにそう言い聞かせられていたので私は軽くあしらった。
——つもりだったのに、
「あれぇ?なにそんな赤くなってんの?もしかして俺のこと好きぃ?」
ニヤァっと笑みを向けてくるおそ松くん。
「赤くなんかなってないよっ」
と、返しつつ、顔のほてりが収まらない。
本当に、どうしてこんなに照れてるんだろう。
なんかさっきから変だ、私。
「うはーい!水色ーーっ!!」
「わあっ!!」
ボンヤリと考え事をしていた隙をつかれ、またもや後ろからスカートをめくられてしまった。