第3章 不純異性交遊?いやいや中身大人ですから
のぞみちゃんを縋るように見る。
「あのさ、僕、記憶が抜けてて…」
「覚えてないの?昨日2人でラブホ行ってローション風呂入ったよね?」
「ラブホ!?ローション風呂ォォォォォ!!??」
奇声をあげながら壁に頭を打ち付けていると、流石に止められた。
クソッなんで記憶が無いんだ。羨ましすぎてこっちの世界線のチョロ松八つ裂きにしたい。なに僕の努力の賜物を横取りセックスしてんの?デカパン博士、脳味噌に記憶送り込んでVRで体感できるメカを発明してくれないかなぁ!?
自分自身が幸せになっているのを許せないという自己矛盾。
記憶がないってこんなに喪失感ハンパないんだな。
「ラブホ…ローション…」
膝を抱え、一松みたいに背を丸めて座る。
あーあ。もう考えるの疲れちゃったな。
「訳が分からないよ高橋さん」
「訳が分からないねチョロくん」
「チョロくん!?」
あだ名で呼ばれて瞳孔がハートマークになったところで。
「もうっ、今日ほんとにおかしいよ…どうしたの…」
笑顔のはずののぞみちゃんの瞳からは、ぽろぽろと涙が溢れ出す。
「高橋さんっ!?」
目の前で泣き出してしまい慌てふためく。
「チョロくん別人みたい。本当に信じちゃうよ、あの日の話」
「あの日って?」
「引っ越す前、2人で登校してた時——」
のぞみちゃんの瞳から溢れた涙が頬を濡らす。
「未来からきたって」
彼女にとっては"あの日"でも、僕にとっては今日の話。
彼女と過ごしたチョロ松はもういなくて、いるのはニートで新品な僕。
ずっと一緒に過ごした恋人が突然記憶喪失になるってどれだけ辛いんだろう?もし兄弟がそうなったら僕は…。
たぶん、いや、めちゃくちゃ寂しい。