第1章 恋はプレーン味
その様子を見ていた岩瀬ちゃんは呆れ顔で答えた。
「なにあいつ。お金借りたいだけじゃん」
「そう、かなぁ」
私にはそうは見えなかった。
ワザと喧嘩を忘れさせる為に、あんなこと言った風に見えたんだけどな。
自ら悪者になって周りを和ませるなんて芸当、松野くんにしか出来ないよ。
……うーん、考えすぎかな?岩瀬ちゃんに言ったら"勘違い"って鼻で笑われそう。
でも、やっぱり松野くんって6つ子の長男だけあって肝心なところで頼りに——
「わーーいピンクーー!」
その一瞬の油断が命取りだった。
「!?」
風になびく私のスカート。
背後にはいつの間に移動したのか、満面の笑みでしゃがみ込む松野くん。
そうだった。松野くんはスカートめくりの常習犯だった。このご時世に。
今まで被害に遭わなかった私だけど、ついに初めくりを迎えてしまった。
「松野くん、な、何してんの!?」
スカートを押さえながら慌てて振り返る。松野くんは鼻の下を擦って終始笑顔。
「だってさっきからずっとここにいたじゃん?俺のこと待ってたんでしょ?デートしよ!金ねーけど!」
「え…あのっ?」
クラス替えから3ヶ月くらい経ったけど、松野くんとマトモに会話するのはこれが初めてだった。下着を見られた動揺で上手く話せない。
「ほら行こーよ!お馬さん好き?俺は大好きー!」
「いや、あの、だからっ」
至近距離で顔を覗き込まれ目が回りそう。
「あ、分かりづらかった?競馬場だよ競馬場!楽しいんだぜー!」
人のスカートをめくっておきながら、なおもグイグイくる松野くんに私はタジタジだ。
と、その様子を見ていた岩瀬ちゃんの目が一瞬光ったかと思うと、
「のぞみに何してんだぁぁぁ!!」
岩瀬ちゃんが鞄を大きく振りかぶり、松野くんの顔面にクリーンヒット。
「ボェバァッ!?」
吹き飛んだ松野くんは、壁にめり込み動かなくなった。
「サイッテー。帰るよのぞみ」
「え?でも壁に…」
「あんな奴心配する必要ないって!!」
岩瀬ちゃんに腕を引かれ、私達はその場を後にした。