第1章 恋はプレーン味
のぞみちゃんは俺と少し距離を置きながら同じベンチに座った。
「夜中に部屋着でうろつくとか随分と元気いいねぇ。何かいいことでもあったの?」
「……いいことなんて何にもないよ。おそ松くんは何してるの?」
「俺?なんとなく家の居心地悪くてさ。まぁしょうがないよねぇ、毎日狭い部屋に野郎6人もいたら息詰まるって」
「そっか、全員同じ部屋なんだっけ」
言わなきゃよかったって思った。
俺らにとっての当たり前はみんなにとっては違うって、高校に入って気付かされたから。
おんなじ部屋、おんなじ風呂、おんなじ布団。
6人でいるのが居心地良かったのに、このままじゃいけない気がしていた。
面と向かっては話さないけど、きっとあいつらもそうなんだろうな。
だから最近、家の空気が気持ち悪いんだ。
「いいなぁ、毎日が修学旅行みたいで」
「んなことねぇし。てか修学旅行なら女の子と同室がいいー!」
「ほんとに女好きだよね」
「女っつーかエロいことが好き!」
ワザとらしく明るいテンションで返したけど、のぞみちゃんの視線は俺ではなくベンチに置きっ放しだった紙の箱に向いていた。
「ねぇ、それ…」
すっかり隠し忘れてた。
「吸ってみる?」
わるーい顔して誘惑すると、のぞみちゃんは予想通りな反応をした。