第1章 Live and let live
「そんな死にそうな顔するなよい」
得体の知れない人間を前にしても決して取り乱すことなかれ、決してあからさまな警戒を敷くなかれ。
漫画の中で見せる実力に見合う大きな気迫と余裕に、私は飲み込まれそうになっていた。
「…そのなんというか、私、決して怪しいものではなくて」
彼がいきなり人を殺したり、襲ったり、そういう類の人間ではないことはあれほど知っているはずなのに。
いざ同じ次元に立ち目の前にすると、今まで感じたことのない緊張感のようなもので思った通りに頭が動かなくなる。
怪しいものの定型文しか口から出ない。
「なるほどねい。海賊か?」
ベッドに腰掛け、リラックスしてる体勢のはずなのに、言葉にできないオーラのようなものが私を捉えて話さない。
「違います」
「…そうかい。海軍ってことはねェよな?」
「違いますね」
足を組み替え、手を置き換え、首を動かす。その一挙一動さえ目を離したら何かが終わる気がした。
そんな私の様子を見かねたのか、彼はベッドから離れ地面にへたり込んだままの私の元へとしゃがんだ。
近い。
片手を伸ばせば余裕で触れる。
近すぎやしないか。
「どこから、何しにこの船に乗ったんだよい?もう1ヶ月は上陸してねェが…まさかずっと潜んでたわけじゃねえだろい?」
「それが…自分でもわかんないんすよね…なんか気づいたらここにいたっていうか」
覇気なんか使えなくてもわかるオーラのような気迫のような、圧倒的な圧。
正直普通に怖い。
絵ではわからなかった。
私が見る彼らはいつでも正義の味方みたいだったから。
今、目の前にいるのは、海賊だ。