第1章 Live and let live
少しずつ奪われていく思考。
もういっそこのまま意識を手放してもいいかとも思えた。
次に目が覚めた時は全て元に戻ってるかもしれない。
変な夢だなあと、再び瞼を閉じようとした時
「誰だよい」
当然開いたドアと同時に低い声が聞こえた。
耳鳴りがするほど静かだった部屋に急に入り込んだ光と音に、私は飛び上がるほど驚き、声を上げる余裕もなくへたり込んでしまった。
「……見ねェ顔だなあ」
逆光で見づらいシルエットは、確かに見覚えがあった。
その特徴的な声も、喋り方も。
到底信じられないが、かと言ってそれ以外の可能性もなかった。
半覚醒状態の頭は動いてるようで動かず、腰は立たないまま本能的に動いた口から出たのは自分でもありえないと笑いたくなるような名前だった。
「マ、ルコ……!?」
いやいやいやいやいやありえない。
そんなわけある?
自分の大好きな漫画のキャラクターが目の前にいる。
「ヘェ、俺を知ってんのかよい?」
喋ってる。
生きてる。
しかも立体的に。
「…………いや、その知ってるというか、知って……うん、まあ…」
目の前の出来事への処理が追いつかないうちに当の本人はどんどん動くし、生きてる現実が更新されていく。
情けない姿勢で情けない回答をしながら、そんなことを気にする余裕などまるでなく全エネルギーを脳の回転だけに費やしていた。
「で?お前は?」
パッと部屋に明かりがつき、シルエットだけだった彼がフルカラーになって目に飛び込んでくる。
やっぱり、どこからどう見てもマルコ。
しかも、
「…で、でかくない……?」
いくら私が尻餅をついているとはいえ、今まで出会ったことのない大きさ。2mはある。
動かないまま目だけを必死に開ける私を他所に、彼は部屋の奥のベッドへと腰をかけた。
バチっと目が合うが、よくわからない気まずさで逸らすしかない。
いやだって、私これただの不審者……?