第21章 真っ白
【すず】
慶次、慶次~~ッ
わんわんと取り乱してすずは泣き出しており、腕を伸ばそうとするが力尽きて地面に落ちる。
【慶次】
(やばいな、これは・・・・。血が、無くなってる感じだ・・・・)
【百之助】
慶次ッ!!
【慶次】
(百之助の声が聞こえる。幻聴とか、さすがにやべえだろ・・・・ッ)
座っていることさえもやっとで身体がだんだんと地面に吸い寄せられていく。ジワジワと滲んでいく温かいような冷たいような液体が脈を打ち、意識を奪っていく。
【百之助】
しっかりしろ慶次ッ すず、お前も今は泣くなッ 俺の言うことをよく聞け!
【慶次】
(・・・・百之助、なのか・・・・?)
はっきりとした意識を取り戻せそうになく、瞼を上げて確認しようとしても視界はそう簡単には広がってくれない。視界どころか、物がぼやけてしまって目で追えない。
【すず】
──う、うん。分かったッ ずっと名前を呼んでればいいのね・・・・ッ
【慶次】
(誰と話してるんだ?・・・・もし、百之助なら・・・・最後に一目会いたい・・・・)
目の前が真っ白で、どこにいるかも分からず手を伸ばす。すると何かに乗せられたあと、強く、男らしい骨ばった指が握り返してくる。
【慶次】
・・・・、
【百之助】
俺は行けない。すず、病院に着くまで声を掛け続けろ。
【慶次】
百之助、
もう一度名前を呼ぶとスーっと視界が開けて、少し風貌が様変わりした百之助と目が合う。
軍服を襟をしっかり締めて、深く帽子を被っているが坊主なのは変わりなくて、顎には整えられた髭を生やして・・・・。
【慶次】
百之助、
【百之助】
ん?
【慶次】
いい男になったな。
【百之助】
・・・・ふん。何を言い出すのかと思えば。
【慶次】
それとな、
【百之助】
聞き飽きた台詞なんていらねぇよ。無駄口叩く暇があったら助かることだけ考えて──
【慶次】
──殺すな。
握り合った手の感覚を手放し、意識が薄れていくのを感じる。
それでも俺は見逃さなかった。
アイツはまた、暗闇に塞ぎ込もうとしている目だったということを。