第24章 願い<完>
無我夢中で走り出す。
痛む傷口を押さえながら、まだそう遠くへは行っていないアイツのもとへ。
【慶次】
っ・・・・。
手に持っている螺鈿札。
何度も手に取っているように指紋が残り、何度も握りしめたのか角のところが丸みを帯びている。
【慶次】
はぁっ・・・・。
胸を拳で押し当てられて、じんわりと温かくなる。あの一瞬だけ、胸の空いた隙間を埋まったような感じがした。
どんなに美しいものを見ても物足りなくて、生きている実感はなかった。
【慶次】
ぐっ・・・・。
血の味を噛みしめながら、地面を踏み進む。真っ直ぐな道をつっきって、畑が見えてくると
──ダァン・・・・と大きな銃声が静寂を切り裂く。
俺を待っている音。
あの低い声も、
握り返す骨ばった指も、
真っ直ぐに伸びた背筋も、
絡みつく逞しい足も、
滑らかな色白の肌も、
はっきりとした顔立ちも、
黒い大きな目も、
少し吊り上がった目尻も、
憎たらしい唇も、
・・・・・・・・いつでもアイツは俺を待っていた。
【慶次】
百之助・・・・!!
走ったままの勢いで抱き着き、百之助の上にドサッと倒れて押し倒してしまう。
久しぶりに走ったから息が全然整わなくて、汗をだらだらと垂らす俺を見て百之助は眉間に力が入ったように持ち上がる。
【慶次】
帰って、飯にしようぜ。
【百之助】
・・・・・・・・・・・・遅せぇんだよ、馬鹿。
おわり