第19章 騒動
【赤松父】
ふんっ・・・・ずいぶんと潔いな。お前は何を言っているのか、自分で分かって言っているのか?
【慶次】
分かってるさ。隠れて付き合っていたのは悪かったと思ってる。けど──
【赤松父】
驕るなよ。潔白な関係だとでもいうつもりか?男同士で汚らわしいことをして、愛しているからと、そうやって誇っていいものじゃない。後ろめたいから隠していたんだろうが。お前たち二人は出ていけ、好き勝手にしろ!
【慶次】
そんな言い方しなくたっていいだろ!好きになっちまったんだから仕方ないだろ!仕事はどうするんだよ。弥彦に任せるのか?アイツにはまだ身が重すぎる。また親父が頑張ったとしても俺の螺鈿は作れない。東京の売り出しだって全部帳消しになる!俺がいなきゃ螺鈿細工の経営が難しくなっていることくらい分かってんだろッ
【赤松父】
その汚らわしい口で螺鈿を語るな!お前なんぞッ──
【すず】
もう止めてッ!!
ちゃぶ台の上で胸ぐらを掴み合いをしていると、すずは親父との間に割り込んで制止する。
少し冷静になって視線を落とすとちゃぶ台にあった湯呑みがひっくり返っており、上気している父親の顔が目に入る。
【慶次】
(いかん、感情的になり過ぎた。すずのおかげでだんだんと頭から血が引いていく・・・・)
親父の胸ぐらを掴むのをやめると同時に離れ、乱れた襟を正す。
【慶次】
親父・・・・、外で話そう。すずはお袋を頼んだ。百之助は、・・・・出て行くなよ。
頭を冷やすために外に出て歩き、人気のない沼のほとりまでやってくる。野鳥が水辺でゆったりと泳いでおり日に照らされてキラキラと輝いている。
【慶次】
(親父は男同士の恋愛が汚らわしいと言っていた。俺にはその理由が理解できない。なら、)・・・・女と付き合うことがそれほど美しいことなのか?
親父は少し息をついてから口を開く。
【赤松父】
それが全てというわけじゃない。私も廉一のことがあったからお前に強く当たり過ぎた。お前にとってそれほどあの子はかけがえのない存在なのか?
【慶次】
ああ。俺は今まで「恋」なんて知らなかった。アイツに出会うまでは・・・・。