第19章 騒動
東京に着たときよりも重くなった荷馬車を走らせ、数日後、ようやく茨城の実家が見えてくる。
【慶次】
やっぱり茨城の空気はいいな~。
【すず】
ただの田舎じゃない。・・・・ねえ、なんだか町の雰囲気がおかしくない?
【慶次】
いつものことだろ。
美男美女が通ればそれは人目に付く。家の前に到着し、呑気に荷下ろしをしていると店の暖簾が吊るされていないことに気が付いた。
【弥彦】
あ、若旦那様ッ
【慶次】
弥彦か。親父が体調でも崩したのか?
【弥彦】
い、いえ・・・・。それが、その。
【すず】
なによ。男ならハッキリ言いなさい。
裏口から顔を出した弥彦はやつれており、いつも元気でハキハキした奴なのだが違和感を覚える。すずに念を押され、おもむろに切り出された話しに俺たちは言葉を失う。
荷下ろしは弥彦に任せ、居間に顔を出すと疲れ切った表情の両親が顔をあげた。
【慶次】
・・・・親父、お袋・・・・。
【赤松父】
・・・・帰ったのか。三人とも座りなさい。
ちゃぶ台を挟むように一列に座り、緊迫した空気が流れる。
【赤松父】
弥彦から話は聞いただろう。お前たちがいない間に廉一が妙な動きをしたから問い詰めた。翌朝、根こそぎ売り上げを盗んで姿を暗ました。それに加え、裏のもんと繋がって危ない仕事をしていたらしい。・・・・慶次、アイツが行きそうな場所知っているか?
【慶次】
いや・・・・、見当がつかない。
【赤松父】
それともう一つ。お前たちのことだ。慶次、百之助・・・・お前たち二人はどういう関係なんだ?
【赤松母】
貴方たちが帰ってくる前、女将が茶屋から二人が出てくるところを見たっておっしゃっていたの。それだけなら未だしも・・・・。
険悪な表情で言葉を詰まらせ、まだ信じたいという面影を見せるお袋。
どうやらこの町の人間にそのことを言い広められ、俺たちの関係を崩そうとしている。
【慶次】
(どう足掻いても・・・・)親父、お袋・・・・その話しは事実だ。相思相愛の仲だ。
その言葉を聞いたお袋は、途端に泣き崩れた。