第19章 騒動
翌朝、俺は螺鈿細工に必要な材料や資料などを集め、百之助は買いたいものがないのか俺の後をついて回るばかり。
【慶次】
へえ・・・・この図鑑は参考になる。
【百之助】
俺はアンタの絵の方が好きだな。
【慶次】
(嬉しいこと言いやがって・・・・)百之助は何か欲しいものはないのか?
【百之助】
アンタが欲しい。
【慶次】
っ、あのなぁ。
すっかりその生意気な言葉に当てられて、火照った顔を片手で覆う。百之助はしてやったりと笑みを浮かべながら、何か思い付いたように口を開ける。
【百之助】
そういえば欲しいものならあった。アンタは物騒なものは反対しそうだが。
【慶次】
な、何を買うつもりだ?
ヘンな期待をしつつ街を歩きながら百之助はとある看板を見つけて店内に入る。そこには俺には縁遠いものが壁に並べられており、百之助はモノを手に取ると構えてみせる。
【慶次】
様になってるな。俺も一緒に兵営しようかな。
【百之助】
止めておけ、アンタには天職があるだろ。この表尺は2400mまである。こんな堂々と販売してていいのか?
【店員】
掘り出し物でね。言っておくが高いよ。
【慶次】
ちなみにいくらするんだ?
【店員】
三十年式の倍だ。
【慶次】
(そもそも三十年式がいくらか分からんのだが・・・・)
どうやらその三八式の銃は多く出回っている三十年式の銃より目盛があるらしく、見た目じゃさほど変わりはない。今百之助が持っているのが祖父の古い銃だから、新調してやりたいと顔を乗り出す。
【慶次】
まだ決まってもいないが入営祝いだ。勘定を頼む。
【店員】
あいよ。
百之助は銃を手にすると喜んでおり、布に包んで肩に背負いあげる。
【百之助】
若旦那様ありがとうございます。帰ったらこれにも螺鈿細工を施してくれませんか?
【慶次】
願掛けて特注のにしといてやる。この後はどうするかな・・・・。
【百之助】
俺が言うのもなんだが、アイツに頼まれたこと忘れてねえか?
【慶次】
アイツ?
昼飯でも食おうかと考えていると百之助に聞かれて、ふと嫁の顔が思い浮かぶ。別れ際の言葉も。
【慶次】
あ~・・・・昼飯食ってから、反物屋に行くか。