第17章 男傾城
芳しい匂いを漂わせながら、俺の両隣りには美しい傾城が座っている。目の前には俺の瞬き一つを逃さないように観察する百之助がいる。正直いってすごく気まずい。
【山吹】
男を相手にするのは初めてかい?若旦那様といったな。なんの商売をしてるんだい?
【慶次】
茨城で螺鈿職人をやっている。今日は百貨店に売り込むために東京までやって来たんだ。
【山吹】
へえ、螺鈿ね。職人にしちゃ手が綺麗だね。
【慶次】
よく言われる。
打ち解けやすい雰囲気を使ってくれているのか、山吹の口調は砕けて話しやすくなる。時折人懐っこい笑みを浮かべては、俺の心臓の音はおかしくなる。
【山吹】
酒は飲まないのかい?
【慶次】
はじめて飲んだ時、一口でぶっ倒れたんだ。今は少し耐性がついてお猪口一杯なら飲める。
【山吹】
そりゃ残念だね。せっかく美味い酒を用意してきたのに。
【慶次】
俺のおごりだ。好きなだけ飲めばいい。
【山吹】
おっ、気が利くね。そちらのお兄さんは一緒に飲むかい?
【百之助】
いや、自重します。
【山吹】
なんだい、詰まらん男たちだね。・・・・ん~、そんなに食い入るように見られると気になるじゃないか。お二人さん、秘め事でもあるじゃないのかい?
そう言いながらわざと百之助の気を引くように、俺の肩に頭を乗せて首から胸の辺りをなぞってみせる山吹。
膝に乗せていた拳にギュッと力が入り、おそるおそる百之助の顔を伺う。
【百之助】
男商売相手だとバレるんですかね。いつから気が付きました?
【山吹】
最初からだね。アンタが若旦那様に隣に座れと言った時からさ。・・・・で、何を確かめたいんだ?
百之助は山吹にそう聞かれ、頭を撫で上げる。そこには薄っすらと影がかかったせいか、少しだけ哀しそうにうつった。
【百之助】
参ったね。こりゃ・・・・。