第16章 東京
茨城から東京まで観光しながら5日間ほどで到着。
俺たちの町屋はわりと栄えている方だと思っていたのだが、中心街に行くとさすが都会というべきか。真新しい建築物が目に入り、まるで別世界に立っているような気がした。
【すず】
──すごい。これが都会!平屋じゃなく西洋建築なんてお城みたい!あの建物は一体何階あるのかしら・・・・。
【慶次】
百貨店があるのは、日本橋か銀座のどちらかだったな。
【百之助】
俺は日本橋の方がいいような気がする。あちこちにビラが貼ってあった。
【慶次】
そしたらこの道をもう少し南下した方がいいか。
【すず】
・・・・・・・・もうッ、二人は建物に興味はないのね。分かったわッ 身軽になるためにさっさと売り込んじゃいましょ!
百之助と一緒に地図をのぞきこんで話していると、横にいたすずは少し怒ったように声を上げた。観光したい気もするが、まずは荷物を少なくしたいため噂の百貨店とやらに向かうことに。
その道は人だかりが出来ており、思わず三人で顔を見合わせる。
【慶次】
すごい人ごみだな。もう少し時間を置いてから・・・・。
【すず】
なに言ってるの。今と決めたら今行くのよ。慶次。
【百之助】
そんな弱腰じゃ相手にされませんよ。若旦那様。
【慶次】
お、おい・・・・!置いてくなってッ
強気の二人は物動じない態度で前へ進み、俺は荷物の肩ひもを直してから追いかける。
人がすれすれに横切るなかを歩き、百之助は「正面玄関で落ち合おう」といって、スルスルと人ごみの中に消えてしまう。
すると前を歩いていたすずは立ち止まって、困った顔を見せてに振り返って来た。
【すず】
ねえ、全然前が見えないんだけど。
【慶次】
あっちだろ。看板が見えてる。・・・・背が小さいと大変だな。
【すず】
もう・・・・。
すずの頭を軽く撫で、ここまで来てしまったのだからと腹を括る。
俺の螺鈿細工はきっと通用する。
送り出してくれた家族や弟子、一緒に来た二人を信じて、漆器売りの看板を掲げていた番頭の前に立った。