第16章 東京
【番頭】
──いや~急に言われましても。色んな先生を扱っていますが、赤松屋なんて聞いたことはございません。
【すず】
見ればわかりますから!お時間は取らせないので部屋に通していただけませんかッ
【番頭】
お客様の邪魔ですので、ささっお帰り下さい。
【慶次】
(この番頭、話が通じない。一旦戻るのが先決だな・・・・)失礼しました。すず、引き上げるぞ。
【すず】
えっ、なんでよッ 話はまだ──
腕を引いて百貨店の外に出ると正面玄関で待っていた百之助を見つける。俺たちの顔を見るなりふっと口元を緩ませた。
【百之助】
正面切ってじゃやっぱ相手にされなかったか。
【慶次】
なんだよ、お前も乗る気だったろ・・・・。
【百之助】
顔は覚えられたろ。まずは第一段階ってところだ。売り物を見てきたがアンタが作ったものの方が繊細だった。自信を持て。
【慶次】
その自信も相手にされなかったんだがどうしろというんだ?
【すず】
──露店販売よ。さっ、気合い入れていくわよ~ッ
【慶次】
他の店に売り込むとかは・・・・それでもいいか。
露店を広げる準備をし簡易的に茣蓙の上に螺鈿細工を並べる。
場所は百貨店の目の前。
喧嘩を売るにもほどがあるが、禁令もないし警察にお世話になることはないだろうと思う。
【慶次】
(はぁ・・・・、俺一人だったら何も売れず帰ってくるところだった。二人がいて助かった)
【若女】
わあ~可愛い髪飾り。うちこんな胸を高鳴らせる螺鈿みたことないわ。これお兄さんが作りましたの?
【慶次】
ええ。試しにつけて見ますか?
【若女】
ええ・・・・。お願いします。
小綺麗な女がキラキラした目で簪を物欲しそうな顔で眺めており、横に立って簪を付け替える。鏡に映った姿をみせて「お似合いですよ」と声を掛ければ嬉しそうに頬を染める。
【すず】
百之助くん。ああやって女を口説くのよ。
【百之助】
勉強になります。
【慶次】
(いらんこというな・・・・!)
客を相手にしているだけなのにこっそりとすずは百之助に耳打ちしている。
まあ、生まれ持ったこの顔を武器にしてないかと問われれば否めない事実だ。