第15章 思い出作り
【慶次】
──・・・・新婚旅行?
【すず】
そう。仕事を詰めっぱなしで全然行けてなかったじゃない。ようやく乳離れ出来たところだし、今がちょうどいい時期だと思ったの。
【慶次】
それなら閑散期にすればいいだろ。それに今はそんなことしてる場合じゃ・・・・。
何故こんなことを百之助に話す意味があるのか。百之助はもうじき徴兵検査を行い、選ばれてしまえば兵役として任を課さなければならない。少なくともすずは俺たちの関係を認めてくれたはずだと思ったのだが、勘違いだったのだろうか。
【すず】
鈍いわね。閑散期まで待ってたら百之助くんが行っちゃうじゃない。だから新婚旅行を名目にして、螺鈿細工の売り込みと用心棒兼荷物係で百之助くんに着いてきてもらおうと思うの。そうすれば不自然なく逢引できるでしょ?これって名案だと思わない?
目を輝かせていうすずの話は、たしかに甘い誘惑だ。百之助とイチャイチャできるのは途轍もなく嬉しいことだ。
【慶次】
それで。行きたいところって何処なんだ?
【すず】
東京!都会へ行って好きなお買い物をしたいの。最近大きな百貨店が出来たっていうし、流通も盛んだから一度行ってみたいの。
【百之助】
東京か・・・・。
【慶次】
百之助、興味あるのか?
【百之助】
行く前にアンタと思い出が作れるなら、俺は話に乗りたいけどね。
どうやら百之助も乗る気みたいだ。この忙しい時期だが仕事の売り込みの話となれば親父も納得してくれるだろうと思い、俺は勢いよく頷く。
【慶次】
分かった。俺が親父に話を付けよう。
後日、親父に東京への新婚旅行と売り込みの話を持ち掛け、俺の螺鈿細工は日本だけでなく世界にも通用するはずだと背中を押してくれる。
店番は両親のほか、廉一、弟子の弥彦たちに任せ、荷馬車を引いて出発した。