第2章 冬の時期
まぶたを瞬かせ、ゆっくり顔を見上げるとポツリと吐き出す。
【百之助】
──前に光るお札をくれたから。
光るお札?
そんなものあげたかなと考え、ある一つのキラキラしたものを頭の中に思い浮かぶ。
【慶次】
ん?ああ、覚えててくれたのか。今でも持っててくれてるのか?
すると少年はコクリと頷く。
その光るお札というのは、小さな木彫りで作った螺鈿札のことである。
俺がそれを作るきっかけになったのは、ある不幸があったからだ。
当時12歳だった俺は何かできないかと思い、父にお願いして許可をもらい、ひとりひとり小学校1年生の入学祝いとして安全祈願を願って作ったものだった。
今でもそれを大切に持ってくれていると思い、嬉しくて頬が緩む。
【慶次】
螺鈿細工に興味はあるか?
【百之助】
うん。
今度は声を出して返事をする。
そうと決まれば今日は俺の家で鳥鍋だ。
少年の母親には悪いが、こうして話せたのも何かの縁だ。そうそう逃すわけにはいかない。
少年の家には母親が一人だけだといい、無断に連れ出すのは失礼なので断りを入れに家へ向かう。
その前に少年の名前は知っているが、ちゃんと自己紹介しておこう。
【慶次】
俺は赤松慶次、螺鈿細工職人の次男坊だ。
【百之助】
尾形百之助、小学3年生だ。