第2章 冬の時期
野鳥を取りに戻った少年は、ぐったりと頭を撃ち抜かれている野鳥を見ながらその小さな口を開く。
【百之助】
今日初めて銃を使った。また別の日に撃つからいい。
そういって、野鳥の首を差し出してくる。
なんの意図があるのか分からないが、たまたま俺が来ただけで野鳥をもらうのは奥がましい気もする。
ましてや、今日初めて撃ち落とした鳥なのに。
【慶次】
俺に、その鳥をくれるのか?
少年は頷いて答える。
ならなぜ鳥を撃ったのか。
無益に殺したなんてことは考えたくない。だとすれば、銃を使いたかったからなのか、撃ち取りたかったのか、それともほかに目的があったのか。
聞いたら答えてくれるだろうか?
【慶次】
なぜ、鳥を撃ったんだ?
【百之助】
母上が毎日あんこう鍋を作るから。
冬の時期になると"あんこう鍋"を毎日作る。少年もやはりおかしなことだと思っていたようだ。
それなのにどうして俺に鳥をくれるのか。
もしかしたら、その鳥であんこう鍋以外のものを食べれるかもしれないというのに。
【慶次】
母親のために鳥を撃ったのなら、俺に渡してしまっては叶わないだろう?さっきの銃声で鳥も当分やって来ないだろうし。
【百之助】
だからそう言った。また別の日に撃つからいい。
【慶次】
じゃあなぜ、俺なんかに大切な鳥をくれるんだ?
さらに聞くと少年の口はいきなり止んだ。
感情の乏しい表情はやはりくみ取れない。
何を考えているのか変わらない表情でじっと固まり、やがて長い睫毛がピクリと動く。