第11章 外食*
【すず】
こっちも美味しいわよ?百之助くん、食べるわよね?
なぜそうなった。
なぜ旦那である俺じゃなく、百之助にスプーンを向けているんだ。俺が食べさせなかったのが悪いのか?俺の知らぬ間にそんな密な関係・・・・なわけがないし、くそ。これじゃ当てつけじゃねえか。
【慶次】
(──百之助も餌付けされるな・・・・っ!)
百之助は一瞬迷ったようだが、ぱくっとすずの差し出したオムライスを頬張っている。
口にしたとき、百之助と目が合ったような気がしたが反らされてしまい、俺は苛々とした気分で店を後にする。
【慶次】
(ああ~腹が立つ。くそ、今は仕事に集中しろ。こんなんじゃ後先持たんぞ・・・・。その前に、今日は百之助に触らないと気が済まん。)
今晩の仕込みを終え、縁側に向かおうとした矢先。明るい声が耳に入り、物陰に潜んで聞き耳を立てる。
【すず】
ふふ、効果あったみたいね。あの人の顔見た?明らかに動揺してたわよ。
【百之助】
どっちが子供なんだか・・・・。
【すず】
今日はここまで。明日も攻めるわよ。じゃあ、おやすみなさ~い。
【慶次】
(そうか。百之助もグルだったんだな・・・・ったく、まんまとハメられてたってことか。相手は逆だけどな。)
すずは俺と百之助が想い合っていることなど知る由もない。
唯一知っている兄貴はあれから何にも言ってこないし、両親に認められるにはまだ実績が足らない。
俺なりにどうしたらいいか考えた。
もっと稼いで、もっともっと螺鈿の腕を磨けば、両親は俺たちの関係を許してくれるんじゃないかと。
こんなに愛しているのに男同士ってだけで、つくづく世間が憎たらしく思ってしまう。
【慶次】
(今晩は優しく出来そうにない。こんなに俺を昂らせたのだから──)
物置小屋となっている二階は、整理して一番奥の住みやすいところに百之助の部屋が作られている。小学校までは俺の部屋で一緒に寝ていたが、中学に上がってからは親父の勧めで渋々妥協した。
軋む階段を上がり、角辺を曲がると布団を敷いていた百之助は顔をあげる。
【慶次】
すずと随分仲が良いようだな。