第10章 家風呂*
すずには正式な話が来るまで信じないと言われてしまい、俺は両親にすずと結婚したいことと伝える。特に反対されることもなく、すずの両親双方とも異論なく、日取りや結納について話は進んでいく。
それはさて置き、求婚したその日の夜、仕事が終わってから真っ先に百之助に報告する。
【百之助】
──・・・・そーかい。おめでとさん。
あまり興味がなさそうに聞いている百之助は、タオルクラゲを作っては膨らんだ部分を潰して遊んでいる。
家風呂はつい半年前に完成し、こうして二人きりで入るのは日ごろの日課だ。敷地があったので臍辺りまで浸かる浅い浴槽で、足を延ばして入っても余裕があるくらい広々とした設計となっている。
【慶次】
百之助がアイツのこと何となく苦手なのは知ってる。けど、下手な奴に勘繰られるより、アイツなら俺がうまく丸め込めるだろうし、割り切りのいい奴だからもしバレたとしても分かってくれると思う。
【百之助】
随分と信用してるんだな。
【慶次】
昔馴染みの付き合いだからだ。お前が妬くような関係じゃないよ。
できることなら百之助と結婚したい。
ただ私情を押し通してしまったら、跡取りという責任だけでなく、周りを犠牲にしてしまう。
家族や仕事を捨て、二人で生きていく手段だってある。だがそうしてまで生きていく勇気がなくて、食って生活していくにはどれだけ大変なことかよく知ってるし、その先なにが待ち受けているか分からない。
とことん自分が意気地なしで困る。
【慶次】
今はただ隠すことだけだったが、嫁を娶れば不可抗力で傷つけることが必ずある。
【百之助】
夜の営みとか?別に構わないぜ。聞いてやらんでも。
【慶次】
平気なわけないだろ・・・・。
好きなヤツが他の誰かとまぐわってることを知った時点で、恐ろしく傷つくのに百之助は面白半分で口にしている。
百之助は滅多に泣かないし、弱音も吐かない。子供の時だってようやく初めて泣いてくれたのに、コイツは感情を隠すのが臆病すぎる。
【百之助】
それで?アンタは最後まで抱かないつもりか?
【慶次】
っ・・・・。
相変わらず含んだ笑みを浮かべており、その憎たらしい唇を塞ぐまでそう時間はかからなかった。