第9章 結婚
またあの頃のように毛先を揃えてやり、着物が汚れないように付けていた刈布を取り払う。
【慶次】
終わったぞ。
【すず】
ありがとう。ん~軽くなった。みんなも短くすればいいのにね~。
【慶次】
さっきと言ってることが違うぞ。
結局俺が切っても伸ばすつもりはないのか、そんなことを言い出すすず。俺もコイツももうじき親が決めた相手と結婚しなければならない。すずの姉はいい夫と結ばれて、この茨城の土地にはもういない。
・・・・夫婦、か。
俺の知っている奴でも知らない奴でも、横に居座るということ。それが急に現実味を帯びてきて胸に息苦しくなる。
【すず】
どうしたの?慶次・・・・。
すずが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
──俺は百之助が好きだ。
百之助さえいればいい。
それ以外に好きになるヤツなんていない。
でも男同士で結婚できなけりゃ、子供も望めない。周囲にも軽蔑される対象だ。
すずは昔から兄のように俺を慕ってくれている。それ以外に恋心も寄せていることも。
コイツなら本当の俺を知っても受け入れてくれるだろうか。
俺がどれほど残酷な人間でも許してくれるだろうか。
たった一人の男しか愛せない俺を。
【慶次】
なあ、すず。
【すず】
なあに?
この事実を知ったらすずだけじゃない、両親も悲しんで蔑まれる。
百之助とは何度も話してきた。
百之助は私情に捉われず「女と結婚するのが当たり前」「跡継ぎだから嫁を娶る」と「合理的に考えろ」と口にする。
もし百之助がほか誰かと・・・・、それを考えただけで胸が張り裂けそうだ。他のヤツに触れられたくもない。
叶わないから隠している。
【慶次】
俺には忘れられない一番大切な奴がいる。それでも、二番目でもいいと思うか?
【すず】
え?
百之助を誰よりも愛している。
【慶次】
──俺と、結婚してくれ。
人に順位をつけるなんて不誠実かもしれないが、俺はすべてにおいて嘘はつきたくなかった。
ほんの少しで良い、分かってほしかったから。