第9章 結婚
足場の悪い沼のほとりを走り、縺れそうになった身体を引き寄せる。
【すず】
離してッ こんな姿見られたくない!もうお嫁になんて行けないわッ
【慶次】
すず落ち着け。いいから深呼吸しろ。
走ってきた呼吸と興奮した呼吸が入り乱れており、少し口調を強めにしていうと、少しずつ正気を取り戻したようにゆっくりと肩で息をし始める。
だが一向に顔を見せる様子はなく、鼻をすすっている音が聞こえる。
【慶次】
・・・・怪我してないか?
【すず】
お姉ちゃんに追いかけて来いって言われたんでしょ。なんで着いてくんのよ。一番見られたくない人に見られるなんて最ッ悪
【慶次】
あの場にお前の姉ちゃんはいない。俺の意志で追いかけてきたんだ。こんな姿でほっとけるわけないだろ。
【すず】
ほっといてよ。私は一人でも大丈夫だからさっきのお嬢様のところに行ってればいいでしょ。私なんてどうせ──
それでもすずはああ言えばこう言うし、中々ほとぼりは冷めそうにない。
口で言っても決着が付きそうにないと思い、俺はすずの切られてしまった髪に手を伸ばすとビクッと震えようやく涙で腫らした赤い顔を見せてきた。
【慶次】
綺麗になるように揃えてやる。この髪だって自分でやってるんだ。俺が器用なことは知ってるだろ?
周囲の目が気にならないように羽織りを頭に被せて家まで連れていき裏庭に用意した椅子に座らせる。
髪を見ると引き裂かれたように切られてしまっておりこれはかなり短く切らなければならないと頭を悩ませる。
【すず】
──思いっきり切っちゃっていいよ。ちゃんと綺麗にしてくれるんでしょ?
【慶次】
傷んだところは切っちまった方がいいから後ろは肩までバッサリだ。前髪も眉毛くらいになるが・・・・本当に良いんだな?
【すず】
うん。慶次を信用してるから。
すずは姉妹の中でも切り替えが早くさっきまであんなにメソメソしていたのに吹っ切れたような顔をしている。研いだ剃刀で長く不揃いな髪の毛を整えていき、気に入ったように何度も鏡をのぞいている。
【すず】
ありがとう慶次っ!
そう言って眩しいくらいに微笑んだ。