第9章 結婚
当時俺が18歳だった頃、いつも通り店番をしていると慌てた様子で友人が顔を出した。
【友人】
おい慶次、大変だッ お前のことで女が揉め合ってる!
【慶次】
は?
俺は女に手を出した覚えなんてこれっぽっちもない。しかし友人は「いいから来い」とむりやり手を引っ張って、小走りで状況を説明される。
事の発端は先日、俺が祝いごとで令嬢に簪を送ったことのようだ。
もちろんその令嬢には日ごろからお世話になっているから感謝の印として送ったものだ。それ以外の意味はなかったのだが、よほど俺から直接もらったのが嬉しかったのが、わざわざ周りに娘たちを集めて見せびらかし、一人の娘が誤って簪を水辺に落としてしまい、それにぶち切れて隠し持っていた小刀を振りかざした、ということだ。
【慶次】
俺が出向いて大丈夫なのかよ。
【友人】
お前が宥めりゃコトはおさまる。血は出てねぇから大丈夫だッ。
【慶次】
(そういう問題じゃねえだろ。)
現場に着くと、小刀を持った令嬢が俺にすぐさま気が付いた。
【令嬢】
あ、慶次・・・・。私は悪くないッ この女が悪いのよ!私が慶次にもらった簪が羨ましかったから沼に投げ捨てたのよ!
【慶次】
分かった。分かったから落ち着いてその小刀を俺に寄こせ。
まずは凶器の収集だ。
前から俺に気があったのは何となく気づいてはいたが、まさかこんなことになるとは思わなかった。両手を広げて穏やかな声を掛けると、小刀を俺の手に置いて、か弱い女を演じるように懐に抱き着いてくる。
【慶次】
(これはひどい。どうみても一方的な犯行だ。今後、贈り物には気を付けないと・・・・。)
令嬢の背中を撫でながら、横目で顔を隠して地べたで泣き崩れている娘を確認する。
着崩れだけでなく、髪結いがひどく乱れてしまっており、切られてしまった髪の毛が地面に落ちている。ひとまず落ち着いた令嬢を付き人のもとに返したのち、その場から動こうとしないすずのもとにそっと近づく。
【慶次】
・・・・・・・・すず。
【すず】
!来ないでッ あっち行って──
一向に泣き崩れて動かなかったすずは、近付いて声を掛けた途端、勢いよく走り去ってしまった。