第7章 丁稚奉公
翌日、廉一は艶々とした良い顔色をしており、さぞかしいい思いをしたんだろう。
家に帰りたくない廉一とは途中で別れ、店の裏口から入ろうとした時、母に呼び止められた。
【慶次】
なんだよ、親父が話したいって・・・・。
積もる話などなく、花街に行ったことがそんなに不味いことだったのだろうか。
そうだとしたら二度と行くつもりはないし、何故は母そんな切羽詰まったような顔をしているのかが意味が分からなかった。
しかし、目の前にあるものを目にして息が詰まる。
【慶次】
──どうして、それ・・・・。
【赤松父】
やはりお前が作ったのか。昨日、お前たちが出掛けた頃にな、尾形さん家の娘さんが顔を出した。そしたらこれを見せてきた。最近いい顔になったと思ったが、お前のせいだったのか。
父の手には風呂敷に包まれた手鏡。
それは百之助とともに端正込めて作った螺鈿細工の手鏡だ。
まさか俺の留守のあいだに百之助の母が顔を出すとは思わなかった。
でもなんで急に?
この前、百之助の家に行った時はそんな素振りなんてなかったのに。
【赤松父】
なあに、そんな顔するな。俺は褒めてやりたいんだ。叱る必要なんてどこにある?廉一に悪いものでも見せられたか?
【慶次】
兄貴は顔だけで十分さ。親父・・・・、今まで隠してて御免なさい。
親父は滅多に怒る人ではないが、螺鈿細工を教えてくれた師匠でもある。
祖父から代々伝わる螺鈿技術。
教えてもらったのは細片を組み合わせて模様を表現するものが多く、絵画のような今まで発想はなかった。
だから俺は見習いの自分が出しゃばってはならないとひた隠しにしてきたのだ。
【慶次】
それでなんで百之助のお袋さんが?
【赤松父】
この代金を払いたいと金を持ってきたが受け取らなかった。さあこれから忙しくなるぞ。そういえばあの子は小さい割には礼儀やしつけがなっているし、お前もえらく気に入っていただろ?これを返しに行くとき、ついでにうちで働かないかと聞いてきなさい。
【慶次】
・・・・!
親父のその一言に隠し切れないほどの笑みを浮かべ、日が明るくなってから急ぎ足で百之助のもとに会いに行ったのであった。