第7章 丁稚奉公
百之助のことばかり考えてくると、胸が熱くて、切なくて、焦がれて、幸せになって、落ち着かない気持ちばかりが溢れ出る。
こんな気持ちは初めてで戸惑ってしまう。
今まで好きだと口にしてくれた女の子もこういう気持ちだったのだろうか。
人の気持ちは分からない。
大きさも深さも重さも、自分の価値でしか分からない。
百之助に恋する気持ち。
兄貴には天然たらしっていわれるし、親父には女の子には優しくしなさいっていわれるし限度が分からない。
好きって言葉は口にしてないのに勘違いされる。
嫌われるより好きって言われた方が嬉しいけど、恋愛に結びつけてほしくない。
異性に惹かれるのは仕方のないことなんだろうけど。
【玉菊】
お酒は初めてで?
横からか細い声が聞こえて、じっと顔を見られていたことに気が付く。どうやら兄貴のこと付けを守って、律儀に一晩ついてくれるらしい。
【慶次】
今まで、そういう道徳がなかったからな。笑っちまっただろ?俺もまさか一口で倒れるなんて思いも寄らなかった。
【玉菊】
ほんとに仰天しました。ここまで運んでくれたのは廉一様なんです。良いお兄様ですね。
【慶次】
えっ、兄貴が?
てっきり男衆が運んでくれたものかと思っていた。まさか兄貴だったとは。きっと松風への内申点を稼ごうとしていたのに間違いない。
その後、玉菊は俺に気がある様子で喋り掛けてくる。
やっぱりどこまで優しくして良いか分からない。
たらしじゃないのに。
顔が良いと褒められるのは嬉しいけど、やっぱりどこか理不尽だ。