第7章 丁稚奉公
──あれ・・・・ここは?
目を開けると見慣れない天井。
芳しい香り。
額に冷たい手ぬぐいが乗せられており、視界に心配した眼差しの白粉を塗った娘が顔をのぞかせる。
【玉菊】
気分はどうです?
【慶次】
君は・・・・。
ああ思い出した。
俺は廉一に花街へと誘われ、百之助が好きだとバレて、酒をあおって倒れたんだった。
彼女は俺の隣についた廊の玉菊といったか。
頭の重たい身体を起こし、そっと気遣って背中に手を沿われる。
【慶次】
兄貴は?あれから何分経った?
【玉菊】
廉一様は松風と部屋に入っています。時間は半時間ほどだと思います。
【慶次】
そうか。ありがとう・・・・。
情けないことにお猪口一杯でぶっ倒れちまったらしい。
これこそ笑いのネタになる。
でも酒を飲むのは初めてだったんだ。
この子は看病で俺についていたらしく、まだ心配そうに俺の横顔を見ている。
【慶次】
もう大丈夫だ。他の客を取らなきゃ仕事にならんだろう。俺はもう良いから。
【玉菊】
廉一様に一晩ついてやれと言われました。
【慶次】
(兄貴の奴、余計なことを・・・・)
特に話すこともなく、上辺を見上げる。
ここは落ち着かないな。
普段の部屋の色合いと違うからだろうか。
とうとう兄貴にバレちまった。
告げ口されることはたぶんないだろうけど油断できない。
金をゆすってきたら永遠に続く。
そうなったら百之助との恋も終わって、俺は一人になって惨めな人生を送ることになるのかな。
それとも両親も周りも祝福してくれて、飴玉みたいな甘い日常が待っているのかな。
百之助に会いたい。
声が聞きたい。
触りたい。
抱きしめたい。
早く好きって伝えたい。
百之助は今、何してるんだろう。
もう寝たかな?
お袋さんと仲良く寝てるかな。
俺のこと考えてくれてるかな。
いままさに俺がいる夢を見てたりして。