第7章 丁稚奉公
上機嫌な廉一は、松風を横に座らせるといきなり口づけし合う。別に見せつけなくたって取りやしないのに、殺生のなさに嫌気がさす。
【??】
失礼します。お猪口を持ってまいりました。
襖の奥から幼げな声が聞こえて、振り返ると年のそう変わらない大人しそうな遊女が顔を現す。
あまり気にして見ていなかったが松風がどれだけ洗練されていたか、今ようやく気付かされる。表情だけでなく、足の運び、指遣い、仕草など、足のてっぺんからつま先まで磨かれた遊女と、またこの仕事をして日が浅いと思われる緊張した面持ちの遊女。
なんだか見ていてハラハラする。
【廉一】
玉菊だ。まだ客を取り始めたばかりの新造だ。
【玉菊】
玉菊です。よろしくお願いいたします。
手をつく動作もおぼつかないお辞儀をして、固い表情のままお酌をしてくれる。
やっぱりどこを見ても危なっかしい。
【慶次】
ありがとう。・・・・でも、もうちょっと楽にしてくれると嬉しいな。俺もこういうところに来たのは日が浅いし、俺の緊張も移っちゃったみたいでごめんね?
【玉菊】
えっ、あ、いえ・・・・そんな、こちらこそ・・・・。
【松風】
まあ、慶次はお優しいのね。良かったわね、玉菊。
【廉一】
松風~、俺は冷たいっていうのかよ~。
【松風】
廉一様もお優しいですけど、あっちの方はとっても激しいじゃないですか。
【慶次】
(兄貴の奴、完全に骨抜きだな・・・・)
こんなだらしない兄貴の顔はもう二度と見たくない。
そう思って注いでくれたお猪口に口をつけようとしたとき。
【廉一】
慶次、百之助のことが好きだろ。
【慶次】
ぶふっッ
突然爆弾が投げ込まれ、盛大に酒をふき出してしまった。