第7章 丁稚奉公
【廉一】
親父とギクシャクしてんのは知ってるだろ?だからお前に頼みたいのよ。
【慶次】
兄貴の面倒ごとは嫌なんだが。
【廉一】
仮にも血が繋がってる兄弟なんだぜ?そんな冷たく突き放すような言葉をいわれたら、お兄ちゃん泣いちゃうぞ。
【慶次】
(泣いてねえだろ)
【廉一】
物はこっちで用意するからこれに螺鈿してくれよ。な、頼む。
両手を合わせて頼んでくる。
兄貴は一体何を考えているのだろう。
惚れた女なら自分で作ったものを寄こせばきっと喜んでくれるはずだ。
それなのにわざわざ俺を頼ってくる。
気に食わない・・・・。
兄貴のことは親父のように尊敬してたが、今はその欠片もない。残念な兄貴だ。
花街に通い出したのは半年も経たないか。
あれもこれも花街に誘った悪友が悪いのか、それにハマった廉一が悪いのか。答えはどう考えたって後者だ。
【廉一】
今度、花街のいい女を紹介してやるからよ。お前の腕を誰よりも買ってるんだ。いずれ親父を超す。頼むぜ、未来の旦那様。
何を言ったって真面目にならない兄に疲れ切った俺は、これ以上親とのいざこざを増やしたくないため承諾する。
それにまた勝手に家の商品を盗んだり、俺の部屋を物色されても困る。
【慶次】
──分かった。やるからにはちゃんとしたものを作りたい。兄貴が送りたい相手の特徴を教えてくれ。
【廉一】
おう。さすが出来た弟だ。
それからというもの俺は兄貴の惚れた女、花街の遊女のために螺鈿を作る羽目になった。
簪や笄、香立てなど、花代だって馬鹿にならないのに、どこからその調達資金を集めているのかは知らないが、持ってきたものに俺が螺鈿細工をする。
誰のために作ろうが修行になるのは変わりないし、割り切ってしまえばどうってことない。