第7章 丁稚奉公
もっと早く知りたかった。
いや、知っておくべきだった。
今まで中途半端に接してきた自分が悔しい。
その頃の俺が出来たことなんて、今の俺にできることとそれほど大差なくても、もっと早く気付くべきだった。図々しくても、百之助のことも母親のことも気になってたんなら・・・・。
【百之助】
・・・・これ、使って。
【慶次】
ぐすんっ・・・・。
気付いたら大量の雨粒を流していたようで、百之助はそんな俺に気を遣ってハンカチを差し出してくれる。
なんで俺がこんなに泣いてるのに百之助は平気な顔してられるんだ。
ちょっとくらい泣いても誰も咎めやしないのに。
手を伸ばして、ぐっと胸元に百之助の顔を押し付けてやる。
【慶次】
今だけお前の父親になってやる。だから泣け。
【百之助】
・・・・・・・・なに、それ・・・・。
それ以上はもう何も言葉を交わさなかった。
男同士なら多くは語らなくていい。
子供だって男ならプライドってもんがある。
母親に素直に甘えられないお年頃なんだ。
感情表現が苦手で、繊細で、虚勢張って、情けないところは見せたくなくて格好つける。
小さく震える背中を心配ないと撫で続けた。
【百之助の母】
──慶次さん、本当にありがとうございました。どうか今晩はうちで食べていきませんか?これからはあの人のためじゃない、貴方たちのためにあんこう鍋をご馳走させてくださいな。
【百之助】
母上のあんこう鍋はどこよりも美味しいんだ。
【慶次】
なら頂こうかな。ご馳走になります。
すっかり泣き止んだ、と言ったら百之助に嫌われそうだから元気になった百之助は、母親につられてたように笑顔を見せる。
俺が見たかった百之助の表情がもう一つ増えた。
また目頭が熱くなるのを感じながら、あんこう鍋を頬張る。
【慶次】
ん。ウマッ・・・・!
百之助が言っていた通り、百之助の母が作るあんこう鍋は絶品だ。時折、顔を見合わせ頬を緩めながら、温かな鍋を囲むのであった。