第5章 猫*
にゃ~ん。
同居がはじまる中で、ふと猫が見たいと言っていたのを思い出し、水茶屋にいる子猫に会いに出向いた。
子猫と戯れている百之助は何だか少し嬉しそうな顔をしている。
【看板娘】
慶次さん、本当に絵が上手ね~。あの子、少し表情がやわらかくなったんじゃない?
【慶次】
やっぱりそう思いますか?まだ声に出して笑ったりはしないんですけど、時折ああやって表情を見せてくれるんです。
【看板娘】
ふふ、慶次さんのおかげかしらね。
【慶次】
だと嬉しいですけど。
腹を撫でられている猫は気持ち良さそうに喉を鳴らしており、猫と遊んでいる様子を画帖に描き残していく。
同居を始めてから百之助を毎日のように描いており、その変化はより鮮明に感じられた。
最初は鬱陶しい顔をされたが、もう気にしなくなったのか、諦めたのか、自然な表情を見せてくれるようになったと思う。
もっと色んな百之助が見たい。
笑った顔、怒った顔、泣いた顔・・・・。
そんなことを想像しながら鉛筆を走らせていると、百之助は俺の膝を叩いていた。
【百之助】
猫と遊べたからもういい。帰ってお手伝いする。
【慶次】
え、もういいのか?俺はまだ描き足りないっていうのに・・・・。
駄々をこねた真似をすると、百之助は少し頬を膨らませて腕をぐいぐい引っ張ってきた。
【百之助】
ただで居候するのは罰当たりだってばあちゃんとじいちゃんに言われた。早く帰ろう。
【看板娘】
ふふ、しっかり者のお兄ちゃんのようね。
【慶次】
一応、俺の方が年上なんだけどな・・・・。
腰を上げると、百之助は先導して俺の手を引いてくる。その小さくて柔らかい感触に癒されながら、小幅をあわせて歩き出す。
ここ最近、百之助は自分の方から遠慮なく触ってくるようになった。
最初は中々合わなかった視線も合うようになったし、俺と二人きりの時はよく喋ってくれるようになり、心をますます開いてくれているようで嬉しく感じる。
それと同時に好きという馳せる気持ちではなく、家族を想うような愛情に近いものを感じていた。