第5章 猫*
何の考えもなしに会いに行くのは、さすがにしつこいと思われるだろうか。と走りながら躊躇し、何かいい案はないだろうかと速度を緩める。
百之助をしばらく自分の近くに置いておける方法。
毎日顔を出すのは不審がられる。
俺は主人じゃないし、家に置くには親父をまず納得させなきゃならない。何か目的があって、親父を納得させて、百之助の親を納得させる方法・・・・。
そしてあることをひらめく。
ちょうど畑にいた百之助の前に顔を出し、はっきりとこう聞いた。
【慶次】
母親は好きか?
【百之助】
・・・・・・・・・・・・うん。
返事は遅かったが頷き返してくれる。
母親のように接してくれなくても、母のことを想っているならその気持ちに答えたい。
母の愛情を今は感じられなくても、俺が必ず、百之助に愛情が向けられるように変えてやる。
【慶次】
百之助、俺に協力してくれないか?
【百之助】
協力?
【慶次】
ああ、お前の母を救うために俺と一緒に作ってほしいものがある。
──母を救う。
その言葉に反応したかのように少し、百之助の眼が揺れたように見えた。
俺がお前の希望になってやる。
俺がお前に祝福を与えてやる。
百之助の小さな手を引いて歩き出す。
母親は出掛けているとのことで、家の中にいた百之助の祖父母に事情を話す。
その後、俺の両親には別の事情を話し、しばらく百之助との同居生活が始まることとなった。