第3章 子供
【赤松父】
──ようこそ、わが家へ。遠慮しないで食べなさい。
【百之助】
いただきます。
お行儀よく背筋をまっすぐにして、食事前の合掌をする百之助。
日頃から厳しくしつけられているのか、あの無関心そうな母親はないにしろ、祖父と祖母がいるのを知っているから礼儀は年の割にはしっかりできている。
うちの兄貴が見習ってほしいくらいだ。
夕食の時間になっても帰ってこないのは、俺の一人兄である廉一。また、いつものところに遊びに行っているのか、救いようがない兄貴だ。
百之助は終始無言で食べており両親は噂の子だと知っているため無碍に話し掛けることはせず、普段の日常的な会話をしている。
【慶次】
百之助。うちで漬けた漬物だ、食べるか?
食事のときは喋らないように育てられたのか、うんと頷いて、口元まで漬物を持っていく。
すると、金魚が餌に食いついたようにパクっと口に入れて食べてくれる。
【慶次】
(か、かわいい・・・・)もう一口食べるか?
もう一度頷くとまた口元まで箸を持っていき食べさせる。
もぐもぐしている姿も可愛いが、差し出したものを食べてくれるというこの異様な喜び。
達成したときとも違うし、褒められたときとも違うし、胸の底がドクドクして高鳴っている。
【赤松母】
慶次は本当に面倒見がいいわね。子育ても安泰だわ。
【慶次】
結婚はまだ先の話だろ。
結婚には全く興味はないが、子供は大好きだ。
小さくて丸っこくて可愛いし、素直で純粋で元気いっぱいで、見るものすべてに目をキラキラ輝かせている。
百之助は元気にはしゃぐような子供ではないが、大人しくても子供は子供だ。絵に興味を持ったり、螺鈿に興味を持ったり、猫に興味を持ったり。百之助らしい喜び方や、目の輝かし方がある。それを少しずつ見つけていきたい。
今日はなんて幸せなんだ。
いつも無視し続けられたから、本当は嫌われてるんじゃないかと思ってたけど。こんなに距離を縮めることができて俺は何よりこの日を忘れないだろう。