第24章 願い<完>
【慶次】
(なんだ?コイツ・・・・)
よっぽど顔を見られたくないのか、俺がのぞき込もうとするたびに顔を逸らされる。自分でも何故こんなに人の顔が見たいのか不思議なくらいだが、余計に隠されると見たくなるのが人間の性って奴だと言い聞かす。
【??】
はあ・・・・。アンタにこれ・・・・返すぞ。
【慶次】
ん?
男は呆れたような溜息を付くとポケットの中を探り、心臓らへんに握り拳を当てられる。
手を広げて出すと・・・・そこには古びた螺鈿札があった。
【慶次】
これは・・・・。
見覚えがある螺鈿札。
これは俺が小学一年生の子供たちに数年前から入学祝として渡していたものだ。
【慶次】
(ということは同じ故郷の・・・・)今も大事に持っていただいているなんて嬉しいです。あの・・・・改めてお顔を。
【??】
アンタもしつこいな。
男はフードをとると、長くなった前髪を後ろに流し、両耳の横は刈り上げているあまり見たことがない髪型。清潔感漂う男の色気を醸し出すような顎髭を生やし、くっきりとした目元に目を奪われている俺をジッと顔を変えずに睨んでくる。
【??】
・・・・アンタの記憶にも残らない顔らしい。
【慶次】
えっ。
男は少し悲しげに見える角度で笑うと、俺の胸はひどく締め付けられたように唸り出す。
【慶次】
(どこかで・・・・どこかで見たことがあるんだ・・・・)
思い出そうとしても思い出せない焦燥感。記憶がありそうなのに呼び起されなくて強請るように名前を聞こうと口を開こうとしたその時。
【??】
役目は終えた。着替えたいから出て行ってくれないか。
男は俺をまた突き放そうとする。まあ確かに自分は覚えていて相手が覚えていなかったらそりゃショックだろう。
親父が覚えていて、俺は覚えていない。
螺鈿札をもってる年下の故郷の人間。客商売だから顔は覚えるのは得意な方なのに思い出せない。きっと俺のことを慕ってくれていた小さな男の子だったのだろう。
俺は男の頭に手を伸ばし、撫でてやる。
【慶次】
ごめんな。ありがとう・・・・無事、帰って来てくれて。
【??】
・・・・。
男の目がひどく揺らいだのを見たような気がして、着替えを渡してからその場を後にした。