第23章 忘れもの
【慶次】
(誰がどう見てもすず似だよな。俺は塩顔だし・・・・)
自分の娘を画帳に描きながら、ふとそんなことを考える。
は俺とすずのあいだに出来た子供のはずなのに、何か別物を見ているような面影。
何か・・・・、別の、なにか・・・・。
【慶次】
っ・・・・。
娘の姿と、重なって見えたような子供のような影。
黒くて、霧のようで、ハッキリとした姿形には捉えられなくて、火花が散ったように目の中に浮かび上がる。
【慶次】
・・・・、
残像を振り払うように目元を押さえて、頭を振るう。
激しい頭痛とも言えない鈍い痛みが頭の中で騒ぎ出し、考えることを止めたいのに止めどなく走り出す。
【 】
──おとさん、頭いたいの?
【慶次】
はぁ、はぁ・・・・っ。・・・・すまん。大丈夫だ。
に声を掛けられ、目を開けると黒い霧が晴れたように頭の中が何事もなかったように静まり返る。
【慶次】
(一体、何だったんだ・・・・)
正体の分からないものを無意識に求めようとして、頭に浮かび上がった残像。
汗を拭っていると は心配して、少し早めに家に帰ることにする。
夕食を食べ、風呂に入り、寝床に付こうとしたのだが、異様に人肌が恋しくなる。
一人部屋で寝ていた俺は、すずと が眠る部屋の襖を開ける。
【慶次】
すず。一緒に寝ても良いか?
【すず】
えっ・・・・どうしたの急に。別に構わないけど、 も一緒よ?
【慶次】
それで構わない。
寝かしつけているすずの布団に入り、人肌を求めるように腕の中に抱き抱える。
【慶次】
・・・・・・・・違う。
後ろから抱きしめるが何だが足らないような違うような気がして、首元に顔を埋める。
【すず】
ねえ、・・・・本当に思い出せないの?
【慶次】
思い出せないって、何がだよ。
ぽつりと問われた真実も変わらず、泥沼の中に沈んでいく。
思い出せない人肌、抱いた感触、匂いを追い求め、彷徨いながら今はそれでもいいと遮るものに目を瞑った。