第23章 忘れもの
日常生活もほぼ自立して動けるようになり、ようやく我が家に帰ってくる。
自分の部屋に久しぶりに腰を下ろすと、掃除をしてくれたのか少し物が片付いているようにみえる。
【慶次】
・・・・すず。俺の部屋のもので、なにか捨てなかったか?
【すず】
え?なにも捨ててないけど・・・・、何か足らないものでもあった?
【慶次】
いや、気のせいなら良いんだ。
ものの配置が多少ずれたことで怒っているわけではなく、何か見落としているような違和感。だがそれは明確にそうと言い切れなくて、気にし過ぎなんだと思うことにした。
【弥彦】
若旦那っ!見てください、俺の新作です!
自宅には帰ってきたものの、まだ繊細な仕事ができるほどには回復しておらず、弟子の弥彦の作品をみたり、帳簿をつけたりするのが俺の日課だ。
【慶次】
ここの色使い、もう少し赤みがあった方が立体感があったな。まだここの研ぎ出しが甘いから、研ぎ直せ。
【弥彦】
く~っ、まだまだ一発合格は難しいですね~。
【慶次】
前よりはだいぶ良くなったよ。才能はあるんだから、あとは地道な経験だ。
【弥彦】
はいっ!頑張りますっ!
弥彦が螺鈿細工をするところを見て、俺も早く作りたいと心ばかりがせっかちに動いてしまう。
まだ刺された脇腹には違和感があり、寝返りをしたりするとまた痛む。
【慶次】
(リハビリがてら、外に絵でも描きに行こうかな・・・・) 、お父さんと少し散歩に出掛けないか?
【 】
おさんぽ、行く~。
【すず】
沼の方は行かせちゃダメよ。危ないんだから。
【慶次】
危ないところには行かせない。畑の方に行くだけだ。
画帳と鉛筆を持って仕度をして、 の手を繋いでゆっくりと町中を歩く。
草むらに腰を下ろし、 は野花を摘んでいる。
【慶次】
(こうしてみると、 はずいぶん大きくなったな)
柔らかな艶のいい髪、白い肌、顔立ちはハッキリしていて、黒目がくりくりとして大きくて、睫毛が長くて、少し目尻があがっている。