覚えているのは、好きだったってこと。【気象系BL小説】
第1章 声が聞こえる。
4年前に目を覚ました時、俺は病院のベッドで寝ていて、医者や看護師、それから全く見覚えのない男性に囲まれていた
『翔くん、気付いた?
良かった…会社の方にも連絡を…』
『え、誰…?』
安堵するその人に声をかけた時、病室の空気が一瞬止まった
そして俺は記憶よりも低い自分の声に戸惑った
その後色々な検査をして分かったことは、俺が記憶を失っていること
記憶喪失なんて本当にあるのかよ…と思いはしたが、確かに鏡に映る自分も、心配だからと会社を休んでくれた彼ーー今井 翼くんも、自分の鞄にすら見覚えが無かった
どうやら俺は交通事故で病院に運ばれていたらしく、連絡先や写真など手がかりになると思われていた携帯は粉々で。
翼くんからの情報によると、俺は24歳で会社の中では出世を期待されている若手だったそう
そんな仕事人間だったからなのか、彼女がいるという噂も無く、学生時代の友人とも頻繁に会うことも無かったらしい
そして1番の衝撃は両親が大学3年生の時に亡くなっていたこと
それすらも記憶にない俺は、どうやら高校生辺りから忘れているようだった
そんな状態で仕事に戻れるはずも無く、退職することになった
怪我の治療のために3日ほど入院してから、翼くんに教えてもらった自宅へと戻った
翼くんや同僚、大学時代の友人で世話をしてくれる、という人もいてくれたが、
記憶の無い俺にとってはむしろストレスにもなるので断った