【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第6章 Untainted, Unbroken ※
すると、談話室を出たところで妊娠のため調査兵を辞める同期と鉢合わせをした。
荷物を持っているところから察するに、兵舎を出て行くところだったのだろう。
「サクラ・・・」
悪阻のせいだろうか、顔色が悪い。
いや、それよりも自分と会いたくなかったのかもしれない。
バツの悪そうな顔で、サクラから目を逸らした。
「・・・辞めるんだってね・・・」
「理由、聞いたでしょ?」
「赤ちゃんが出来たんだよね・・・おめで」
「おめでとうって言わないで!」
厳しい剣幕で遮られ、サクラはそれ以上何も言えなくなってしまった。
「おめでたくないのに、祝福されたら惨めになる。どうせ、あたしのことバカにしているんでしょ?」
「そ、そんなことないよ」
「みんなからどんな目で見られているかわかってる」
彼女は悔しそうにお腹を抑えた。
「バカしちゃったよ・・・まさかデキるなんて・・・しかも産まれるまで父親もわからないんだよ。まあ・・・その時まで父親が生きているとも思わないけど」
「・・・・・・・・・・・・・」
「まったく欲しくないのに。“これ”さえいなかったら・・・あたしは・・・」
その言葉に、なぜか無性に悲しくなった。
でも、悲しいのは彼女の方なのかもしれない。
「まあ・・・壁外調査をがんばってよ。私は子どもを産んだら生産者となって、人間以下の扱いを受けるんだろうけどさ」
「・・・・・・・・・あの・・・」
なんて言葉をかければいいのだろう。
答えを見つけられないでいるうちに、彼女は去っていってしまった。
異性と交わり、命を授かることってそんなに悲しいことなのか。
ならば、なぜ人間は子孫を残すためにこんなことをしなければいけないのだろう。
“無”から生まれ、“無”に還る巨人の方がマシではないか。
欲を満たすために、体を売買する人がいる。
孤独や恐怖を紛らわすために、愛情のないセックスをする人がいる。
その結果、“これ”と呼ばれる、望まれない命が生まれる。
「悲しい・・・」
サクラは空を見上げ、目を閉じた。
数日後、あまりに残酷な現実を強いられることも知らずに・・・・・・