【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第13章 Forget Me Not ※
ヒラ・・・ヒラ・・・
桜が舞う。
夢か、現実か分からない世界で、過去の光景が蘇った。
あれは9歳の頃。
私は初めて人を殺した。
父は東洋人との混血だった。
詳しく聞いたことはないけれど、極東の民族の血を受け継いでいたらしい。
そして、父には弟がいた。
年の離れた弟だったから、叔父ではなく“お兄ちゃん”と呼んでいた。
お兄ちゃんは父と同じく、とても優しい人だった。
父と違うのは、兵士だったということ。
「サクラ、これが壁の外の石だよ」
調査兵だったお兄ちゃんは、壁外の石や花を持ち帰ってプレゼントしてくれた。
どれもシガンシナにあるのと変わらなかったが、なぜか特別な感じがした。
「サクラは大きくなったら何になる?」
お兄ちゃんはよくそう聞いてきた。
そのたびに、私は迷わずこう答えた。
「私は、お兄ちゃんのお嫁さんになりたい」
お兄ちゃんはそのたびに微笑んだ。
子どもの戯言に目を細め、髪を撫でてくれた。
「じゃあ、サクラが大きくなってもステキな人に出会えなかったら、僕のお嫁さんになってね」
「お兄ちゃん以上にステキな人なんていないよ」
「いくらでもいるさ。それだけじゃない、誰よりもサクラのことが大好きって言ってくれる人がね」
大きくなったらお嫁さんになりたい。
ごく普通の、ありふれた夢だが、それ以外の未来は想像がつかなかった。
ウォール・マリアが崩壊する前は、兵士を目指す女子は少なかった。
まさか自分がなろうとは・・・
あの頃・・・兵士が苦手だった。
たまに見かける憲兵は傲慢だったし、門の周りにたむろしている駐屯兵は昼間から酒に酔っていた。
そして、シガンシナ区の前門から壁外調査に出発する調査兵は、恐怖と興奮が入り混じった異様な顔つきが怖かった。