【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第13章 Forget Me Not ※
母は微笑みを絶やさなかった。
怒りや悲しみ表に出さず、優しく温かい空気を常に身にまとっていた。
そして、何に対しても愛情を注ぐ人だった。
父は穏やかで物静かだった。
東洋人の血を微かに引いていることを負い目に感じていたのかもしれない。
争いを好まず、誰に対しても気配りができる人だった。
母は私の世界の中心だった。
父は私の世界の外縁だった。
立ち振る舞いは母に、言動は父にそっくりだと言われた。
しかし、サクラはそんな二人と決定的に違う部分があった。
一度だけ・・・そう、たった一度だけ。
両親は、恐怖すら覚えるほどの怒りと憎しみが娘の心に巣くっているのを見た。
それは、初めて母の顔から微笑みが消えた瞬間だった。
初めて父が暴力を振るった瞬間だった。
サクラは血だまりの中に佇み、その手はナイフが握られていた。
そして、幼い口元には歪んだ笑みが浮かんでいた。
「サクラ・・・貴方は優しい子・・・」
初めて見る、母の涙。
「サクラ・・・お前は危うい・・・」
初めて見る、血に染まった父の手。
「私達が命にかえても、サクラの中に潜む影を抑え込もう」
その翌年、両親はサクラを連れて、満開の桜が咲く山に連れて行った。
薄桃色の花弁をずっと見上げるその姿は・・・
まるで深い祈りを捧げているようだった。