第3章 アリスの日常
隣の隣の一つ後ろの席の女子生徒と目が合った。
内気でおどおどした雰囲気の少女だ。
彼女は一つ頷くと腕をカクカクと動かして、水平にした手のひらを目の高さまで上げる仕草をした。
「奈良時代です」
教師が「え?」と目を丸くする。
「年は?」
考える振りをしながら、少し後ろを振り返る。
少女は両手で丸を作り、それを左右に離して、開いた。
「天平(てんぺい)十五年六月二十三日」
「発布した天皇の名前は?」
続く問題も楽勝である。
先ほどと同じように振り返ると、少女は腕を交差させてそれを伸ばし、人差し指と中指を揃えて胸の前に持ってきた。
ふむふむ。
「聖武天皇」
教師が撃沈した。
仕方なさそうに「授業を再開する」と教師が言ったので、私は着席する。
斜め右後ろの少女は、こちらを見てにっこりと笑った。
宇佐見 真白(ましろ)。
彼女とは幼稚園の頃からのつき合いである。
授業を聞いていないときに教師に当てられると、先ほどのようにジェスチャーで答えを教えてくれるのだ。
こうして、授業は平和に終わった。
* * *
――キーン、コーン、カーン、コーン……
歴史の授業が終わり、宇佐見 真白――シロは私の席まで来て、安心したように笑った。
「良かった、ちゃんとアリスちゃんに伝わって」
「十年以上も一緒にいれば、分かって当然でしょ。ありがとう、シロ」
「アリスちゃん……」
礼を述べると、シロは頬を朱くする。