第3章 アリスの日常
――キーン、コーン、カーン、コーン……
その音が学校で鳴る授業開始のチャイムであることを感じながら、私は無視する。
窓から入る昼の暖かな日差しが心地良いのだ。
見逃してほしい。
誰かが何かを喋っている。
だが、残念なことに、その言葉が意味を持って私の耳に届くことはなかった。
身体が暖かな陽気に包まれ、私は再び夢の世界へ誘われる。
「……き……藤城……――」
壮年の男性の声が聞こえた。
何やら騒がしいが、気にすることはない。
この程度の喧騒ならば眠ることができる。
だが、その男は私が眠るのを許してくれなかった。
「起きろ、藤城(ふじき) ありす!!」
突然、自分の名前が呼ばれたことに驚き、反射的に立ち上がる。
前方を見ると、青筋を立てた歴史教師が教卓の上で恐怖の笑みを浮かべていた。
寝ぼけ眼をこすりながら、私は教師に応じる。
「……何ですか?」
まだ眠いので放っておいて下さい、と心の中でつけ足す。
「授業を聞いていたなら分るよな? 墾田永年私財法が発布されたのは何時代か答えてみろ」
頭がすっきりしてきた。
こんでんえいねんしざいほう?
どこの国の言葉だ。
そもそも私は、授業を聞いていないどころか、教科書すら出していないのだから答えられるわけはない。
つまり、これは単なる嫌がらせだ。
でも、授業中に居眠りしていた罰に恥をかかせてやろうとは、大人げないのではないか?
だが、大人しく恥などかきはしない。
教師に気づかれないように、ちらりと右側を見る。