第24章 私のアリス(帽子屋恋愛END)
【選択肢】
①臆病な人ね
→②優しい人ね
* * *
「優しい人ね。今だって本当は私のこと、殺したくなんてないくせに」
悲しそうな顔をしている遥都先輩を私は見据える。
首筋に刃物が当てられていることを忘れたわけではない。
遥都先輩は本気で私を殺そうとしている。
けれど、遥都先輩の中にまだ躊躇いが残っていることも見抜いていた。
殺すならもっと早く殺せたはずだもの。
わざわざ身の上話だってする必要もない。
ねぇ、そうでしょう?
遥都先輩が人や物を遠ざけたのも、本当は壊したくなどないから。
「遥都先輩は何が怖いの? 私が死ぬこと?」
「もちろん、貴女が死ぬことは恐ろしい。貴女が私以外の人間に心を移すことも」
「そんなこと?」
「えぇ、そんなことです」
私は、遥都先輩が私の首に当てている刃物、それを握る彼の手に触れる。
「なら、誓ってあげる。私は死なない。一生、遥都先輩だけを想い、あなたを看取った後に死ぬ」
「命乞いですか? 上辺だけの言葉など……」
「上辺だけかどうか、確かめてみればいいじゃない。私がこの言葉を違えたら、そのときに殺せばいい。あなたが私を愛して、私があなたを愛しているのに殺すなんて、惜しいと思わない?」
ピクッと遥都先輩の顔色が変わった。
「私は死にたくない。あなたに話したいことがたくさんあるもの。今日のこと、明日のこと、一年後のこと、十年後のこと……死んだら話せないじゃない」
死にたくない。それは本当。
でも、この気持ちだって本物だ。