第22章 帽子屋ルート(分岐)
「私も、昔はそうでしたよ……本当に、小さな頃のことですが……」
呟くような、囁くような小さな声だった。
「幼い頃、忙しい両親に代わって私を育ててくれたのは、祖母でした」
遠い瞳は、幼い頃を見つめているのか。
遥都先輩は昔話を始めた。
「祖父は私が生まれるより早くに亡くなってしまっていて。紅茶を好きになったきっかけも、祖母が飲ませてくれたからです。祖母と、祖母の愛犬である『ジンジャー』と過ごす時間が、私は好きでした」
懐かしそうに、彼は目を細める。
「ある日……元々持病を抱えていた祖母が倒れ、帰らぬ人となりました。私が五歳になったばかりの時です。その後を追うように、ジンジャーもすぐに死んでしまった。老犬でしたから、仕方がないといえばそれまでですが……」
初めて聞く話に、私は何も言えなかった。
「燃やされる祖母と……埋められるジンジャーの遺体を見ながら、私はようやく涙を流すことができました。そして理解したのです。二人がこの世から消えてしまったこと、もう会うことができないこと……私の中に生まれた虚無感が、もう埋められないものだとも」
大切な人の死は、いつだって残された人間の心に重くのしかかる。
私がまだ体験したことのない別れを、五歳の少年はすでに体験し、理解していた。
「七歳の頃、私は肌身離さず大切に持っていた、祖母の遺品である万年筆をクラスメイトに壊されてしまいました。祖母が大切にしていた祖父の遺品であり、私にとっては祖母の形見である万年筆を」
「……っ」
当時を思い出したのか、私の腕を掴む遥都先輩の手に力が込められる。
私は話の腰を折らないよう、呻き声を呑み込んだ。